AIが作った10分動画、8割が単色背景だった——仕様書に「背景」欄がなかった

動画編集タイムラインの1区間だけが空白になっているフラットイラスト コラム

「背景がない時間がやたら長いけど、狙ったもの?」

AIエージェントに組み立てを任せているYouTube動画を見返していて、そう感じた。統計解説の回、10分4秒。確認すると、資料室風の背景イラストが出るのは冒頭10秒と最後の2分だけ。中間の約8分、全体の8割は、深緑一色の上に小さなチャートが浮かんでいるだけだった。

修正前は約8分間ほぼ同じ単色が続き、修正後は背景の変化がある。1秒ごとの画面平均色を並べた比較図
1秒ごとの画面の平均色を時系列に並べたもの。修正前(上)は中間の約8分がほぼ同じ単色で埋まっている

演出として狙ったのか、事故なのか。この切り分けに、思ったより深い教訓があった。

同じパイプラインなのに、1本だけ意図通りだった

同じ制作パイプラインで作った動画を3本並べて調べた。結果はきれいに割れた。

1本目の歴史解説動画は、単色背景の時間が約55%あったが、すべて意図通りだった。シーン仕様書(scene_spec.md)に「背景: クリーム単色+うっすら紙テクスチャ風。地図は使わない」と明記されていて、実装もその通りになっていた。

2本目は、意図的な演出と事故が混在していた。台本に「画面を2色に塗り分け」と書かれた区間は指示通り。一方、「書誌カードを表示」とだけ書かれた区間は、カードの背後が真っ黒のまま約1分半放置されていた。

3本目、冒頭の10分動画がいちばん重症だった。仕様書に背景の記述が一切なく、「前作のチャート演出を踏襲」とだけあった。前作は5分の動画。同じ見せ方を10分に引き伸ばした結果、単色の時間だけが倍増していた。

AIは仕様の空白を「最悪のデフォルト」で埋める

3本を並べると、法則は明白だった。仕様書に背景の指定がある区間は全部正しく、指定がない区間は全部、単色か黒に落ちていた。

考えてみれば当然で、実装側のAIは仕様にないことを勝手に盛らない。シーンのベースを黒で初期化し、指示された要素だけを載せる。人間の実装者なら「カードの後ろ、ずっと真っ黒だと寂しくないですか」と聞いてくるところを、AIは黙って仕様通りに作る。

つまりこれは実装のバグではなく、仕様の欠落だった。そしてタチが悪いことに、機械チェックでは捕まらない。動画は正常にレンダリングされ、尺も音声も字幕も合っている。「背景が寂しい」は、要件として書かれていない限り、誰の検査項目にもならない。

「AIの出力が悪いのでは?」と思うかもしれない。でも人間のチームでも同じことは起きる。仕様に書いていないことは作られないか、実装者の趣味で埋まる。AIとの違いは、人間なら途中で違和感を口に出す確率がある、という一点だけだ。AIに任せるなら、その確率をゼロとして設計に織り込む必要がある。

直したのはコードより先に、仕様テンプレートだった

コードの修正自体は素直だった。資料室背景+暗幕を敷く共通コンポーネントを作り、透過PNGのチャートには下敷きパネルを付け、各シーンのベースに差し込んだ。2本で計8シーン、レイアウト座標は一切動かさずに済んだ。

修正前は単色背景にチャートが浮かぶだけ、修正後は背景イラストの上にチャートパネルが載っている。同時点フレームのモザイク比較
同じ時点のフレーム比較(公開前のためモザイク処理)。左が修正前、右が修正後

でも本質的な修正はそこではない。シーン仕様書のテンプレートに「全シーンの背景指定」を必須欄として追加したことだ。欄が空なら書き手が気づく。欄があれば「ここは黒でいい」という判断も、事故ではなく意図として記録される。

AIエージェントに仕事を任せるときのレビュー観点は、「出力が正しいか」から「仕様に空白がないか」へ半分移る。出力のレビューは出力の数だけ必要だが、仕様の欄をひとつ足せば、以後の全出力に効く。

明日やるならこれ

AIに繰り返し作らせているものが手元にあるなら、直近の成果物を1つ開いて、「指示していないのに、いい感じになっている部分」を探してみてほしい。それが見つからなければ、指示していない部分はすべて最悪のデフォルトで埋まっているはずだ。そこがあなたの仕様書の空白地帯で、次の「狙ったもの?」が生まれる場所だ。


私は現役EMとして、1on1やチーム運営の仕組み化について書いています。1on1管理のNotionテンプレート(無料Lite版)を公開中です → 試してみる。X: @anikuma_tech

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