AIに任せるだけでアプリ量産、月20万は本当か。2本作って試した

AIロボットが2つのスマホアプリを組み立てるイラスト コラム

「週末に1個作って、半年で20個。置いておくだけで月10〜20万円」

副業系の連載でそう読んだ。AIに指示するだけでツールアプリを量産すれば、あとは寝かせておくだけで不労所得になるという話だ。

本当にそんなに簡単なら、実際にやってみればいい。現役EMという肩書きは一旦置いて、2本のアプリを作ってみた。

検証の設計: 条件を変えて2本、見るのは4つ

1本目はSonnet(Claude標準モデル)、2本目はOpus(上位モデル)で作る。見るのは4つだけだ。実装にかかった時間、エラー往復の有無、ビルドが通るか、実機で触って動くか。

あえて元記事が推奨する通りの「薄い機能」で作る。ズルはしない。

アプリ1: サブスクトラッカー、詰まりの5段階はすべてAIが自力で解決した

絡まった歯車を1つずつ解決するロボットのイラスト

1本目は、登録した月額サービスの合計金額を自動計算するだけのシンプルなアプリ。Android開発環境が何も入っていないマシンで、ゼロから始めた。

flutter doctor を叩いた瞬間から詰まりが始まった。

  1. Android SDKが無い → brew install --cask android-commandlinetoolsで導入
  2. Javaが無い → brew install openjdkで導入
  3. 入れたJavaのバージョンがGradleと非互換 → openjdk@21に切り替え
  4. SDKのバージョンが要求に足りない → sdkmanagerで追加
  5. ビルド中にNDK・Build-Toolsが自動要求される → ライセンス同意を自動化して通過

5段階すべて、人間への質問はゼロだった。エラーメッセージがそのまま次の一手を示していたので、AIは1〜2手で解決している。所要時間は約14分。ただし内訳を見ると、環境構築だけで8分を使っていて、アプリのロジック自体(一覧・登録・編集・削除・合計計算)は3分で一発完成している。

ここで気づいたことがある。「コードを理解しなくてもAIに指示するだけで動く」の主語が、いつのまにか人間からAIにすり替わっている。今回、人間はただ待っていただけだ。実質的にトラブルシューティングをしていたのはAIであって、初心者が一人でこの5段階に遭遇していたら、環境構築だけで心が折れていた可能性が高い。

「見えないコスト」に、検証している自分が気づいていなかった

過負荷を示すゲージメーターのイラスト

実機検証の段になって、想定外のことが起きた。エミュレータでアプリを起動すると、「System UI isn’t responding」というANR(応答なし)ダイアログが繰り返し出る。

一見アプリのバグに見えた。だが原因を追うと、uptimeのload averageが26〜28。M1 Proのコア数に対して大幅な過負荷だった。検証と並行してビルドを走らせ、Chromeのタブも大量に開いていた。アプリのプロセス自体は正常に動いていたのに、CPUが確保できず、最初のフレームすら描画できていなかった。

重い作業を閉じてload averageを18台まで下げると、一発でクリーンに起動した。Netflixを月額1,980円で登録すると、月換算合計1,980円・年換算合計23,760円が正しく自動計算されて表示された。

「AIに指示するだけでアプリが作れる」という主張は、コード生成やビルドの成功だけでなく、それを動かす開発者のマシンリソースという見えない前提の上に成り立っている。ここは検証している自分自身が体感するまで気づけなかった。

アプリ2: 子供向けtodoスタンプアプリ、エラー往復ゼロ。でも前提条件がある

2本目は機能をぐっと増やした。朝夜のタスク管理、スタンプ、ご褒美動画の自動再生、GitHub風のコントリビューショングリッド、親向けのご褒美モード。4画面構成で、1本目より明らかに複雑だ。

結果は、実装時間4分43秒。エラー往復はゼロ件だった。1本目よりずっと機能が多いのに、flutter analyzeは一発で”No issues found”、ビルドも一発で成功している。

ただしこれには前提条件がある。この時点で、Android開発環境は1本目のおかげですでに整備済みだった。ゼロから始めていたら、この時間には収まらない。

もう1つ、無傷だったわけでもない。実機検証の前に、実装とは別のモデル(Fable)でコードレビューをかけると、dispose後のsetStateクラッシュとタスク追加時のorder衝突、潜在バグが2件見つかった。修正もAIに任せてから実機に進んでいる。エラー往復ゼロは「コンパイルとビルドが一発で通った」であって、「バグがなかった」ではない。

負荷を5〜9台まで下げてタップ操作を試す。朝夜4つのタスクの星スタンプをすべて押した瞬間、ご褒美画面(紙吹雪と「よくできました!」)が自動発火した。カレンダー画面のコントリビューショングリッドは正しく緑に塗られ、親ご褒美モードの節目チップ(10日・20日・30日)も意図通り表示された。すべて一発成功だ。

土台さえ整っていれば、4画面のアプリがAIだけで5分弱・エラー往復ゼロで形になる。ただし「土台が整っている」こと自体が、量産の主張からは見えないコストになっている。

2本の差は、モデルの性能ではなく環境が整っていたかどうか

アプリ1(サブスクトラッカー・Sonnet)アプリ2(子供todo・Opus)
機能数少(登録・一覧・編集・削除・合計)多(4画面・動画再生・独自グリッド・マイルストーン)
実装所要時間約14分約4分43秒
エラー往復5件(すべて環境構築)0件(潜在バグ2件は事前レビューで検出)
実機での初回結果ANR(原因はMacの負荷)一発成功
実機での最終結果成功成功

アプリ2の方が高機能でエラーゼロという結果だけを見ると「Opusの方が優秀」と読みたくなる。でも本当の差は、モデルの性能ではなく、環境がすでに整備されていたかどうかだ。同じ土俵で比較していない数字を、そのまま比較してはいけない。

「週末1個・月20万」を3つに分解する

そうは言っても、環境構築が大変だっただけで、アプリ自体は作れているのでは、という反論はあるはずだ。ここは元の主張を3つの要素に分解して、検証結果と照らして答える。

「コードを理解しなくてもAIに指示するだけでアプリが作れる」
半分本当で、半分誤解を招く。アプリのロジック部分は本当に指示するだけで動くものができた。ただし環境構築・エラー対応まで含めると、「AIに任せる」の主語は人間ではなくAI自身になっている。人間が一人でやるなら、この試行錯誤を自分の頭で理解して解決する必要がある。

「置いておくだけで月5,000〜1万円」
今回は未検証で、かつ疑わしい。ビルドが通って実機で動くことと、ストアに公開して自然にダウンロードされ収益が発生することの間には、審査・ASO・マーケティングという全く別の壁がある。今回はそこまで到達していない。

「週末1個・半年20個で月10〜20万円」
量産の前提条件が過小評価されている。Apple・Googleのガイドラインには薄いテンプレアプリの量産を制限する規定があり、量産そのものが審査リスクになりうる。マシンリソースや実機検証という見えないコストも積み上がる。

まだ検証できていないこと

正直に書く。ストア公開後の実際のダウンロード数と収益は、今回はローカルビルドとエミュレータ確認までしか到達していない。Apple App Storeが定める4.2.6(テンプレアプリ規制)に実際に引っかかるかどうかも、複数アプリを量産した場合に審査傾向がどう変わるかも、まだわからない。

ここまでやってわかったのは、「AIに指示するだけで動くものは作れる」は嘘ではない、ということだ。ただし「作れる」と「稼げる」の間には、今回まったく手をつけていない工程がまだいくつも残っている。次はそこを1つずつ潰していく。


私は現役EMとして、1on1やチーム運営の仕組み化について書いています。1on1管理のNotionテンプレート(無料Lite版)を公開中です → 試してみる。X: @anikuma_tech

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