EMになりたての頃、正直に言うと1on1の前日が怖かった。
最初の部下は入社3年目の若手エンジニアだった。仕事ぶりはわかっている。技術的な話もできる。でも「キャリアの話をする」「成長を支援する」という仕事は、誰も教えてくれなかった。
1on1は2ヶ月に1回。それなのに、前日になるたびに「明日、何を話せばいいんだろう」と考えてしまう。結局、近況を聞いて、最近どう?で終わる30分になっていた。
上司に言われた一言
ある時、上司から指摘を受けた。
「もっとその人に合った内容にしてほしい。具体性が足りない」
責められたわけではない。でも、返す言葉がなかった。「その人に合った内容」と言われても、2ヶ月前に何を話したか、正直あやふやだった。毎回ゼロから始めている感覚があって、積み上がっているものがなかった。
問題は「話す内容」ではなかった。記録がないことだった。
記憶に頼ると起きる3つの問題
記憶に頼った1on1には、構造的な欠陥がある。
1. フィードバックが感情的になる。「なんかあの件、モヤっとした」という感覚はあっても、「いつ、何があって、どんな影響があったか」が言語化できない。結果、フィードバックが「感想」になってしまう。
2. 評価に根拠が出ない。「あなたはこういう点で成長した」と言いたくても、証拠がない。直近の印象に引きずられて、2ヶ月前の頑張りが正当に評価できていない。
3. 毎回ゼロから始まる。前回話したこと、約束したこと、変化の経緯が繋がらない。2ヶ月に1回しかない時間が、毎回リセットされてしまう。
これは記憶力の問題ではない。構造の問題だ。
3つのことを変えた
1. 1on1ログを5項目で構造化した
それまでは話したことをなんとなくメモしていた。これを5項目に変えた。
- 業務・プロジェクトの状況
- キャリア・成長に関する話
- コンディション・困りごと
- フィードバック(渡したこと・受け取ったこと)
- 次回までのアクション
項目を決めると「今日はキャリアの話をしていない」と気づける。次回のアジェンダが自然に生まれるようになった。
2. フィードバックをSBIフォーマットで記録した
SBIとは Situation(状況)・Behavior(行動)・Impact(影響) の頭文字だ。
「自分の意見を強く押し通そうとした」という出来事があったとする。これをそのまま伝えると「そうじゃない」と防御反応が出る。SBIで書くとこうなる。
S: 先週の設計レビューで、チーム全員が参加していた場面
B: 他のメンバーの提案を遮って、自分の案を繰り返し主張した
I: 他のメンバーが発言しにくい空気になった
感情ではなく事実として記録する。本人も「そういうことだったのか」と受け取りやすくなった。
3. 評価期に使うフラグを立てた
1on1ログに「評価期に使う」チェックボックスを作り、成長の瞬間や改善が必要な行動があった記録にその場でフラグを立てる。評価サイクルが来たとき、フラグ付きのログを並べると半年の物語が見える。評価コメントを「作る」のではなく、「見つける」作業になった。
次の1on1から、手応えが変わった
記録の構造を変えると、次の1on1からすぐ違いを感じた。
前回の記録を見返すと「あのアクション、どうなったっけ」「この話の続きを聞こう」と自然に準備が整う。2ヶ月ぶりでも、前回の続きから入れる。「ちゃんと覚えてくれていた」という空気が変わった。
そして予想外の効果があった。自分自身と上司の1on1でも使えるようになった。
上司との1on1の冒頭で「前回のフィードバックを受けて、こうしました。結果こうなりました」と言えるようになったのだ。記録があるから言える。これを続けていくと、上司からの信頼も変わっていくのを感じた。
記録は、部下のためだけじゃない。自分のキャリアを守る武器にもなる。
この仕組みをNotionで再現しました
EMになってから試行錯誤してきた記録の設計を、Notionテンプレートとして整理しました。この記事に書いた5項目ログ・SBIフィードバック・評価期フラグをそのまま組み込んであります。
👉 無料Lite版を試す(1on1ログDBのみ)

コメント